ステンドグラスへの想い 6 (夢祠の虫編)

title:「夢祠の虫」/1990   九州グラスアート展’90(日本グラスアート展)・優秀賞受賞

前回〈SGへの想い5〉の「zen」で、作家として何が大事かを教えられた。
自分自身をギリギリまで追い込み、力んで絞り出すように作品を描き、創ることが決して
良い作品を生まない…
作家として当然, 心の葛藤はある、そんな中でも自然体の自分でいられたら、肩の力を抜いて
自分自身に素直になれたら…と考え始めた切っ掛けになった作品でした。

切っ掛けから確信へと繋がり、私自身を人として、それ以上に作家として大きな変化を
与えてくれたのが、この「夢祠の虫」の作品です。
私にとって、ターニングポイントになった、貴重なかけがえのない唯一の作品だと思っています!
この作品は、当然公募展に出す以上、力を入れた作品ですが
でもそれ以上に特別の感情を抱いて制作した作品です。

このBlogの中でも、書いているように、私の息子は難病の筋ジストロフィーでした。
息子の病気が解ってから私達家族の生活は一変しました。
生き方、考え方、日常の生活、行動範囲全てで変わらざる得ませんでした。

女房の全ては母として彼の為にあり、父親の私が入れる状況に無いと言うより、
入れなかったと云った方が正しいかもしれません。
でも、父親として我が子に何かしてあげたい…、
母親の真似は出来ないが、父親として何が出来るだろうか? 毎日考えました。 
しかし、私の出来ることと云ったら一つしか有りません!
ステンドグラスを創る以外何の取り柄も有りません…

私は無性に彼の為に、衝動的に作品を創りたくなり、
息子が大好きな「虫」を題材に創作しょうと思いました。
私のスケッチブックに、ボールペンで落書きしていた虫の絵が、とても魅力的でした。
彼の虫(我が工房のロゴマークになっています)を中心に、
つたない親父の虫達を絡ませ、ちょっと遊び心を入れ制作しました。
この作品の制作中は、本当にとても楽しかった…、私自身、いっぱい虫達と会話しました。

親父から息子への、はじめてのプレゼント作品。
其処には理屈は有りません、理論も理由も有りません!
ただただ、彼への想いだけでした。
上手く描こうとか、テクニックとか、他人の目とか全く意識しませんでした。
私にとって初めての事です。
感じるままに描き、創作した作品! 
他に何が必要でしょうか?
誰でもが生まれながらに持ってるピュアな素の部分、内面に温かく湧き上がってくる衝動…、
愛おしくて愛おしくて、ひとつひとつ丁寧に愛情を込め創る…
これが、最も大事なことだと学びました。

本当に、かけがえのない宝物を初めて手にした感じです。
この時以来、私は作品に対する姿勢や1人の人間としての考え方が変わりました。 
感じる作品を創っていきたい、味わう作品を創っていきたい、
心に温かく優しい余韻を残せる作品を常に創っていきたい。
夢はいっぱい広がります。 
理論や知識で作品は創りたくない…
、これが私の本音です!
理論や知識を決して否定はしません、学んでいく過程で大事なことです。
しかし、湧き上がる感情や想いに、理論・理由は要らないと思います。
何故か其処を越えたところに、答えが有るように思えてなりません。
私自身の美学、内なる私自身との対話、素直に行動できる私を見つける事が出来たら
素晴らしいことだと思います。

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